登校早々、教室に入った蒼助を待っていたのはある種の地獄だった。




 いつもの三分の一は欠けている2―Dのクラスメイト。

 しかも見当たらないのは女子のみ。

 男だらけという個人的には酷く喜ばしくない光景だった。








「何だこの異空間は………昨日までは共学だった筈だぞ、この学校」



 朝から酷く気分を害された。

 蒼助はかなり失礼なことぼやきながら、空手部の朝練で登校が早いため既に教室にいた昶のもとへと歩み寄る。

 そして、いつもと違いすぎるこの状況に対する疑問をぶちまける。



「どーゆーこった、昶………この潤いのない空間は」

「朝来てお前と同じ条件で同じものを見た俺に聞くな」



 素っ気無い返事を返されるだけに終わった。

 そこへ、同じくして弓道部に所属するため朝が早い七海が二人のもとへやってきた。



「おはようさん。他のところも似たようなもんやで。この調子じゃ、学校の女子半分は休んどるやないか?」

「ったく、ストでも始めたのかよ………時代誤差なことしやがるもんだ」



 そう言うと、違うだろ、と双方からツッコミをもらった。



 そんな時、



「その件なんだけどねぇ」



 突然、三人の輪の中に教室にはいなかったはずの久留美が現れた。

 なんの気配も前触れもなく出現した級友に、三人は驚きの声をあげながら思わず後ろに下がった。



「うおっ! お、お前何処から生えた!?」

「人をキノコみたいに言うんじゃないわよ、失礼ね」



 言われて仕方ないような登場をしておきながら憤慨する久留美に頭を抱えながらもズレが生じている会話を修正しようと昶が試みる。



「新條、お前この有様の真相を知っているのか」 

「ああ、うん。……私もそれ知ろうとさっき職員室で聞き耳立ててたんだけど、どうもあの連続猟奇殺人が原因らしいわよ。ほら、今朝報道されてたニュースで五人目の

被害者。あれが月守の生徒だったの知ってるでしょ? そのニュースを見た父兄の当分登校させないって電話が殺到しているみたいで。まぁ、うちだけじゃなくて、渋谷

の何処の学校もこんなことだと思うけど」



 その事実に蒼助は沈黙する。

 他の二人は苦渋の表情を浮べていた。

 四日前に起こった猟奇殺人はもはや連続通り魔殺人と化していた。四日の間にもう五人も殺されている。最初のカップル以降は全て女性。その点から犯人の標的は女性に

向けられていることがわかった。

 被害者の中に娘と同年代の女子生徒がいたのだ。父兄としてはもう他人事として傍観視しているわけにはいくまい。

 いってらっしゃい、という言葉が娘と交わした最期の会話になどしたくはないに決まっている。 

 最悪の事態を考えたら、出席日数も授業もどうでもいいとばかりに娘の身を案じる親は、家から一歩も出さないと言う最終手段に出たのだろう。



「…………で、そんな物騒な状況で………よく登校しようと思ったなお前ら」



 言葉の向かう先は現在、教室にいる数少ない女子である七海と久留美。

 双方、お互い顔を合わせると胸を張って、



「はーい。うち、今、家出た姉二人と暮らしてまーす。一人は二日酔いでダウン。一人は、夜中に原稿上がって爆睡してて止められる以前の問題やったー」

「はーい。私、親に止められたけど振り切ってきましたー」



 何度見ても無い七海の胸と、意外とある久留美のそれを確認しながら、



「まぁ七海はともかく………久留美、その心は?」

「ジャーナリストはいかなる危険にも怯まず常に戦線に立つものよ……って何で七海ちゃんはともかくなのよ?」



 そりゃ、『退魔師』だから。



 などとは言えるわけがなく。

 そのため、あえて何も言わずそっぽ向いている本人と同じように適当に誤魔化す。



「さすがに襲わねぇだろ、これは。男心を刺激する要素が外見にも中身にも一つもありゃしねがぁっ!」



 ナイスなフォローと思われたそれは、青筋浮べた七海のラリアットの強襲によって、強制的に台詞の中断を余儀なくされた。

 ぶっ倒れた蒼助を尻目にした後、七海は開きっぱなしのドアを見やって、



「ちーちゃん来るやろかぁ………家厳しそうやから他と同じ見たく」

「っぐ………ってオイ待て、その気の抜ける呼び名は誰を指してる」

「誰って、終夜さんに決まっとるやないか。千夜って“ちよ”って読めるやろ? だから、親しみ込めてそう呼んで……って、なんやねんその痛いものを見る目は」

「お前………呼ばれる方の気持ち考えてるか?」

「なんやとぉっ、ちーちゃんは別に良いって……」

「……いや、もういい」



 この呼び名の許可を申し込まれた時の千夜の反応を思う。

 若干引き攣りながらも懸命に受け流す姿が安易に想像できた。

 ポーカーフェイスの裏での引き様は、凄まじい事だっただろう。

 仮面を被るってのいうのもやはりこちらの予想以上に大変な事なんだろう、とここにはいない千夜に本性を知る者としては同情せずにはいられなかった。



「都築、随分あの転校生と仲がいいみたいだな」

「へへっ……隣の席ちゅーこともあっていろいろ頼ってくれるんや。ほらぁ、あのコ見たまんまお嬢様やろ? 悪い奴に絡まれないようにうちがちゃんと守ってやらへん

と………ってだから何なんや、蒼助! 今度は久留美までっ」



 こちらの哀れむような視線に、ぎゃーぎゃー喚く七海を尻目に蒼助は久留美と顔を見合う。

 あの放課後、彼女のお嬢様とは程遠い本性を知ってしまった者同士には、今の七海はなんというか、哀れだ。

 それは置いておくとして、家が厳しいかどうかはともかく千夜が登校して来るかは気になる。



 と、そこへ、



「おはようございます」



 開きっぱなしのドアから噂の当本人が優雅に微笑んで登校してきた。

 きっちり『仮面』を被って。



 しかし、教室に足を踏み入れて目の当たりにした光景に、驚いた表情で目を軽く瞬く。

 これは恐らく演技でもなんでもなく素の反応だろう。

 そんな彼女に七海がいち早く声をかけた。



「あ、ちーちゃんっ。来たんか」  

「都築さん………あの、これは一体………」



 事情を話そうと口を開いた七海だったが、更なる早さで先手を久留美がとった。



「最近、この渋谷で起こってる物騒な事件で……ちょっとね」



 自分の役を横取りされてむくれている七海を無視して続ける。



「警察も相当手を焼いているみたいよ。現場の残っている手がかりが少なすぎて、捜査は進まない。被害者の共通点も女性であることと殺害方法だけで、最初のカップルを

除いて人間関係に繋がりはなし。おまけに、該者達は際立って人柄が悪いというわけでもなく、特定の恨みを買っている情報も見当たらない。そうなると、もうこれは通り

魔による無差別殺人としか考えられないけれど……………それがわかっても、目撃情報も無しでは八方塞がり……ってところかしら」

「………なぁ、ご丁寧に情報公開してくれるのは嬉しいが、その一般人が知れる範囲を超えた情報は何処から流れてくるんだ」



 そんな野暮なことを尋ねる昶に、



「事件は会議室じゃなくて現場で起きてるってね。これは基本。ニュース見てわざわざ野次馬に混じって現場で聞き込みしたのよ」

「おいおい、最近の警察は一般人に内部の情報漏らすようになったんだぁ?」

「私の伯父さん、渋谷の警察署の刑事なのよ。姪思いのやっさし〜〜〜人だからちょっと頼めばすぐに教えてくれるのよねぇ〜」



 台詞の一部の強調に異様な含みを感じたのは自分だけではないだろう。

 蒼助が周りを見れば皆、深く追求はしまいという決意が顔に出ていた。


 そう気にしてはいけない。

 何があって『優しい』のかは、気にしてはいけない。


 誰に悟られる事も無く蒼助がそう決意した時だった。



「席つけー、ホームルーム始めるぞ」



 いつの間にか朝礼の時間が来ていて、蔵間が教室にやってきた。

 これを区切りにと思ったのか、久留美はそこで話に区切りを付けて席に戻ろうとしていた。

 だが、ふと何かを思い出したように。



「あ、そうだ終夜さん。この前出来なかったインタビュー、図書室でやりたいんだけど構わない?」



 盗み聞いた蒼助は正直呆れた。

 あの後話を聞いてみれば、インタビューを頼んでいたばかりに様子を窺っていた連中にそれを聞かれ、人質にとられたらしい。

 あんな目に遭っても諦めていないその図太い根性は、大したものだった。

 千夜もその負い目と断った後の“怖さ”を悟ってか、やんわりと受け入れていた。



「いいですよ。放課後、図書室ですね」

「じゃ、よろしく」



 会話の終了を機に、蒼助とその一同はそれぞれの席へと戻った。

 クラスの全員が席に着くと、蔵間は出席の点呼を始めた。



「あー、まず……皆も知っているだろうが、近頃起こっている事件のことがあって、保護者から欠席の連絡を受けた生徒を報せる。春原、佐々木、有川、木戸………」



 淡々と挙げられていく生徒の名前。

 全て女子だ。


 既に久留美の先取り情報によって熟知していた蒼助には、驚く点がない。

 聞き流しているうちに、女子の半数以上の名前が欠席者としてあげられていた。



―――――――以上の生徒は、本日をもって近頃渋谷で頻繁に起こっている通り魔事件が止むまで当分の間休学を承諾された奴らだ。今日来ている女子も、これは理事長

から降りた今回限りの特例だから成績とか出席日数云々は気にせず、帰ったら親に聞かせて明日からどうするかちゃんと相談しろよ。


 ―――――――それから、玖珂」



 突然の指名に、蒼助は浮ついていた意識を呼び戻す。



「……あ?」

「昼休み、俺のとこに来いよ。速攻でな」



 蔵間の右手の親指を起てて上を示す。

 その動作で、蒼助は『用件』を即座に理解した。

 蒼助にしかわからないその合図(サイン)に、



「了解。行きゃ良いんでしょ、行きゃ」

「よし、それじゃぁホームルーム終わり! チャイム鳴るまで教室にいろよー」



 奇しくも言葉と同時にチャイムが鳴り、生徒たちは動き出した。







 ◆◆◆◆◆◆






 昼休みを迎え、蒼助は朝言われた通り蔵間のもとへ向かった。

 ただし、職員室ではなく『指定された』屋上へ。



 建物が古いせいか、やや立て付けが悪くなっている扉を屋上使用常習者のコツでガタガタ言わせて開ける。

 踏み入れば、指定した本人が既に来ていて煙草をふかしていた。





「速攻で来いっつったろ、蒼助ぇ」

「これ以上は無理だっつーの。これで、三分しか経ってねぇんだぞ“蔵間さん”」



 知るかとばかりに、理不尽にも限界ギリギリの努力を切り捨てる蔵間。

 頬を引き攣らせながらも蒼助は、手すりに寄っかかるその隣に歩み寄る。



「一本くれよ」

「……一応、教師の立場に立つ俺が生徒に煙草勧めるのってどうよ」

「堅い事言うなよ〜、どーせ教師なんて退屈しのぎなんだろ? なぁ、"総帥殿"」



 最後の部分を強調して言葉にすると、蔵間はバツが悪そうに目を逸らし、



「………しゃーねぇな、黙っとけよ? 結構気に入ってんだからこの副業」

「へいへい。退魔業界の国家機関たる天下の【降魔庁】のボスが、こんなところで高校生に古典教えてんだから世も末だよなぁ……」

「ほっとけ、エラいお世話だ」



 蒼助の皮肉に蔵間は銜えた煙草を噛み締め、開き直る。

 蒼助がポケットからライターを取り出し火を付けていると、屋上から見渡せる渋谷の街をしばし黙って眺めていた蔵間が、口を開いた。



「………話ってのは例の事件のことなんだが」

「やっぱりか…………ふぁ」



 台詞の途中で込み上げて来た欠伸を、噛み殺す。

 それを見た蔵間が、



「何だ、昨日の夜は朝までご無体か?」

「ちげぇ。つーか、ご無体って……………まぁ、いいけどさ。ここのところ、氷室と朝倉に付き合わされて渋谷を一晩中巡回させられてんだ。あの野郎、毎回毎回ようやく

切り上げたと思ったら、朝の五時だぞ。……日の出の朝日が目に滲みるったらありゃしねぇ」



 ちなみに、『これ』が四日前に呼び出された際に受けた依頼だった。

 個人で自由に動けない上に、あの氷室と再び行動をともにすることになるという非常に気の進まない仕事だったが、選り好み出来る場合と立場ではなかった

 よって、今回は生活費の為にかなり自分を抑えて受けた。



「はっ、懐かしかったろ。降魔庁時代が」

「くそっ。面白がりやがって……俺と朝倉と氷室でチーム組ませたのアンタだっただろが。何の嫌がらせだったんだよ、ちくしょう」 



 悪態つきながら、肺に溜め込んでいた鬱憤と一緒に煙を吐き出す。

 思えば、この男に誘われて降魔庁に入ったのだった。
 蒼助は不意にそれを懐かしむ。


 『目標』と『理由』を失って、手に負えないの獣と化していた自分を叩きのめし、失ったものを取り戻すチャンスをやろうと降魔庁に迎えたのが、この蔵間恭一だった。

 日本を影から支える降魔庁の中心である一族の現当主であるこの男はどういった経緯があったのかは知れないが、玖珂家―――――というより親父の善之助個人―――――

と旧知の仲であった。

 家に尋ねて来たところを何故か気に入られて以来、蔵間は蒼助にとって年の近い兄のような存在となった。

 喧嘩に明け暮れて知ったような振りして何も知らなかった頃、いろいろ教え込まれたものだ。本当にいろいろと。

 出会った時から二年が過ぎて、入ってから様々な足りなかったものを手に入れはした。しかし、結局『失したもの』は取り戻せないと悟って、高校入学を機会に降魔庁は

辞めてしまった。 

 あの頃より自分はどれほどマシな人間になれただろうか、とらしくもなく感慨に浸っていると、 



「……っと、話がズレちまったな。で、例の事件の事だが…………」

「ああ、アレな。珍しいじゃねぇか…………アンタのとこの隠蔽が遅れるなんて。仕事、放っぽり出して、呑気に花見にうつつぬかしでもしてたかよ?」 



 からかうように言ってみたが、蔵間の顔はマジな表情のまま。


 いつもと呼び出される時とは、何かが違う。



「蔵間さん……?」

「…………お前、今夜から巡回しなくて済むぞ。ゆっくり睡眠時間取り戻せ」

「あ? 突然何言って……」

「今朝の会議で、所属五年未満の退魔師は事件解決まで活動停止が決定した」

「……っなんだと!?」



 銜えていた煙草を、口を開いた際に落とした。



「か、活動停止って……」

「この事件に対する関与はもちろん、通常の活動も停止。ホシを討伐するまで無期限だ」  



 その言葉に、蒼助は唖然とせざるをえなかった。

 そして次に、『異常』を察した。



「おい、何考えてんだよアンタ………」

「会議の結果、総員一致でこの事件は若い連中には荷が勝ち過ぎてるっつー結論が出てな。そういうわけだ、今日中に指令が伝わるだろうからお前もお役御免だ」

「そうじゃなくて……」



 そんな事を聞いているのではない。

 聞いているのは、



「たかが魔性一匹に……何が荷が勝ち過ぎるってんだよ。どーかしてるぜ」

「……どっちかっつーと、どーかしてるのはこの事件の方なんだがな」

「………どういうことだよ」



 蒼助のにじり寄るような視線に蔵間は少しの躊躇を沈黙で表した。

 そして、諦めか決意か、溜息混じりに口を開き、



「………今回の事件の被害者の死因知ってるよな?」

「直接的な死因は知らねぇよ………ニュースでやってたレイプした後殺されたとしか……」

「笑い話にしかならねぇからな……表には曖昧にしか発表を許してねぇんだよ。―――――――外傷はない。刺殺や撲殺の傷なければ、絞殺の痕もない。遺体には、死に至る

致命傷には程遠い掠り傷くらいしか残っていなかった」

「……なんだそりゃ、じゃぁどうやって殺されたってんだ」

「ヤリ殺し」



 さらりと告げられた答え。

 思わず脱力しつつ、



「………ふざけてんのか」

「いや大真面目。解剖の結果、子宮から大量の精液が出て来たそうだ。死因は医学的には腹上死による心臓疾患だった」

「医学的には……ってことは?」

「最初の男はフライドチキンみたいに食い殺されて、女は死ぬまで犯された。人間ができる所業じゃねぇし、それが出来たらもう"人間じゃない"。だから降魔庁(うち)が動くわけ

になったんだが………一応、どんな状態なのかうちも確認させている。そしたら―――――――



 次の言葉は蒼助を凍り付かせた。



「生気も魂も丸ごと持っていかれていた。こっちの業界的に言えば、真相は【感応法】によりそれが行われ衰弱死に至ったってところだ」



 感応法。

 性交などで精神を昂らせ、体液交換する事で相手の生気を賜る呪法。

 本来なら互いの力を一時的に高め合うか、弱った相手に己の生気を分け与える応急処置的術だが、使用法を誤った方向で応用すれば相手の力、生命力を根こそぎ奪い取り

己の潜在能力を上昇させる事も出来る。しかし、そんなことをすれば、奪われた方は衰弱死する。



「殺害方法は、それ目当てで実行されたと思われる。唯一異なる死因の最初のカップルの男の方は、たまたまだな。本命は女で、おまけの男は肉ごと適当に食われただけ

って感じなんだ」

「……だからってよ、何もベテランにしぼって捜査する必要あるのかよ。珍しい事じゃねぇじゃねぇか」

「………確かに、これがただの魔性が起こした事件ならな」



 意味深な言葉に蒼助は訝しげに眉を顰める。

 蔵間は合間にふぅー、と口から煙を吐き出して、言葉を紡ぐ。

 問いかけの形にして。



「今回の事件、何で表沙汰になったと思う?」

「あ?」



 何を言い出すのだろう、と蒼助は目を瞬かせた。



「んなもん……アンタとこが差し押さえに遅れたからに決まって……」

「別にうちは総出で花見にも飲みにも言ってねぇ。真面目にお仕事してた………にも関わらず、先に気付いて発見したのは通りすがりの一般人で、動いたのは警察だった」



 それは驚愕の瞬間だった。

 まさか、と蒼助は思わず蔵間を顔を凝視した。



「……まさか……気付かなかったのか?」

「ご名答」



 一言の肯定が、何よりも事の異常さを蒼助に訴えかけて来ていた。



「アンタとこの監視体制と探知機能は絶対じゃなかったのかよ……」

「のはずだっただがな。………どういうわけか、あの夜は現場になる代々木に反応はなかった。もちろん、探知機能は正常な動きだった、故障していない。だが、結果は

コレだ。初犯から四日で五人もやられてる……」 



 ぎり、と蔵間の口元から聞こえる歯軋りの音。

 前歯に挟まったタバコが拉げていた。



「考え方としては………ホシは探知にひっかからねぇように、瘴気を隠しながら犯行に及んだと思われている」

「んな馬鹿なっ……器に入ったって、そんなことは出来るはずがねぇ。あれはどうあっても隠せるもんじゃ……」

「それが自在に出来る新種が現れたってなら…………話しは別だ」



 蒼助、と続けて蔵間は凭れかかっていた手すりから背を浮かせ、真っ直ぐに蒼助の目を捉えて言った。



「そーゆーわけだ。手ぇ引け、蒼助。もう、事態はガキが首つっこんでいいって笑ってられる状況じゃねぇみたいだからな」 



 普段学校で見せることない、一組織をまとめる頂点に立つ者としての威厳を醸し出す見慣れた男の姿に蒼助は言葉を失った。

 少しして、要件は全て言い渡せたと思ったのか、蔵間は一息付く。

 タバコを手すりの向こうに放り捨て、硬直している蒼助の左肩をポンと叩いて、



「俺たちは、常に日常とは真逆の非日常側にいるが………その非日常にも、もっと深い場所があるのかもな。……それこそ、触れてはいけない禁忌とば呼ばれる領域が」



 呟きとも意見を求めるようにもとれる言葉を残して、蔵間は屋上から去って行った。

 残された蒼助の内側に、やがて大きく拡がる―――――――今は小さな揺らぎ起こして。





















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