生きたい。

 けれど―――――――死にたい。

 



 傍目完全なる矛盾を引き起こしている千夜の相反する願望は、久留美にはまったくといっていいほど内部(なか)で溶け込みはしない。

 

 全くもって理解し難い。

 死にたいけれど、死ぬのが怖い。あるいは逆の場合であっても、それらはまだ理解できそうな範疇にある。

 

 ようは、行為を貫徹する度胸が無いということなのだ。

 義務や使命のような感覚として捉えていて、まだそれに心が付いていけていない部分があるということ。

 自殺未遂を何度も起こしている人間の心境などが、そういうものだろう。

 

 しかし、千夜のそれは何処か一線を逸している。

 何かが、違う。

 

 だが、その何かとは何なのか。

 

「……何処かで楽になりたかった。前を向いて歩き続ける中で、何処で楽になれるのだろう、と考えていた」

 

 ほとと、と雫のように落ちる呟きは、あらぬ方向を向いてのものだった。

 久留美に対する告白ではなく、どちらかといえば独白のように思えた。

 

「正直……こんな死に方でも不満はないんだ。俺は、それだけの報いを受けることはしてきた。その覚悟も出来ていたし、今も変わらない」

 

 でも、とそれまでとは反する事実を告げるための前置きを口にしたにも拘わらず、声には変わらず抑揚のないまま続き、

 

「生きていればそれを躊躇してしまうようなことにも遭うし、死ぬわけにはいかなくなる理由も出来る。それが頑張れる理由にもなるんだが…………

同時に、ひどく疲れが増すことにもなる」

 

 疲れる。

 溜息のように千夜の口から零れた言葉が、酷く現実味のないものに聞こえ、感じた。

 

 止まったら死んでしまうのではないかとさえ思っていた相手から、そんな言葉が出るなど夢にも見ていなかった。

 

 夢。

 否、あの夢で現れた彼女は―――――――本当にそうだっただろうか。

 

「冗談とかじゃなくて、俺がいないとダメだっていう人間がいて。そいつは俺が死ぬくらいなら自分は喜んで死ねるとか言う。そいつらを叱咤したり宥めてると、今度は

空気を読めない読まないの厄介ごとがガラ空きの背中を狙って突っ込んでくる。手段や品を変えてと尽きないそれを何度来ようとも撃退してたら、今度は原因不明の体調

不良だ。……運命とやらにも嫌われてるとなると、いい加減ゲンナリしてくるってもんだろう」

 

 まるで蟻地獄のようだ、と溜息をつく千夜の横で久留美は感想を持った。

 

 もがけばもがくこと、足元の砂は崩れ落ちていく。

 蟻はそれに気付くことなく、捕食者の元へと引きずり込まれていく。

 

 そんな憐れで滑稽なものと、この人が同じだなんて信じられなかった。

 

「ここからが最悪だ。……俺の調子が悪いと知ると、死にたがりの馬鹿どもがこぞって前へ出てくる。それこそ……死ぬが本望といわんばかりに、な。……たまったもん

じゃないよ、久留美。俺が……何が一番嫌で怖くて足掻いているか、連中わかっていてやるんだ」

 

 くっ、と鬱屈とした笑みが吹き出る。

 

 屈託なく笑みと歪み無い笑みを浮かべる人だと思っていた。

 けれども、こんな風に笑ったりするのか。

 

 

 衝撃が、未知の事実が、久留美の中で少しずつ積みあがっていく。

 

 これは、誰だ。

 目の前で鬱屈とした空気を放つこの人は、一体誰なのだろう。

 

 こんなの知らない。

 知らない。

 

 

「……それでも、手を離せなかった。掴んでいても離してもどの道死ぬのならって思ったことが無いわけじゃない。だが、それでも諦めてしまうことで終わるのが………

 ―――――――怖かったんだ」

 

 千夜は、何もない手の平を見つめて言った。

 何もない。それが意味していることは、今しがた口にした言葉とは間逆のことだった。

 

 手を離したのか。

 何故。どうして。

 

 疑念を込めた視線を送っていると、気付いたのかそうでないのか、千夜が発した言葉は、

 

「……だから、お前の言葉は救いだった」

「ぇ」

 

 独白から不意を打つように語りかけへ転じた。

 その内容に、久留美は一瞬自分の耳を疑った。

 

「足掻くことに疲れながらも、それでも止めることのできない俺にとって………あの言葉はトドメだった。拒否しようのない解放感を与えてくれたよ。お前は悪くないと

いう優しい嘘よりも、お前のせいという容赦ない真実をつきつけてくれたお前には、感謝すらしている。―――――――ありがとう」

 

 皮肉のつもりなのか。

 それとも、遠まわしの怨み言なのか。

 

 しかし、千夜から向けられた視線とかち合い、そのいずれでもないことを知る。

 

 本気で、本当なのだ、と。

 

 

―――――――なにバカなこと言ってるのよ!」 

 

 耐え切れず、思わず声を荒げた。

 ワッと吼えるように言ったのにも拘わらず、千夜は微動だにしなかったことが腹立たしくて、勢いづいたまま、

 

「そんなことで感謝されたってうれしくないわよ! そんな感謝の言葉聞きたくないわよ! ……何で………何で否定しないのよ!」

「そんなことする必要ないだろう」

「しなさいよ、馬鹿っ!! これまで頑張って来れたんでしょ。自分でなによりもその事実を実感していても………それでも受け止めて耐えてきたんでしょ!? 私なんか

の言葉で……私なんかの感情に屈しないでよ。屈しちゃダメよ! ……あの言葉だったら、取り下げるわ! あんなのその場限りの嘘っぱちだから…………本当に悪いのは

あんたじゃないからっ………悪いのは……」

 

 他にもないか、と言葉を募ろうと思考する。

 しかし、

 

―――――――久留美」

 

 割り入る声が、それを中断させる。

 あ、と思った時は既に遅かった。

 意識が必然と千夜に向かい、千夜の"思惑どおり"になる。

 

「久留美。言っただろう」

 

 もう一度名を呼び、固定するような口ぶりを置く。

 

 

「俺は、もう疲れたんだ……」

 

 

 あらゆる全てを寄せ付けず、受けない言葉だった。

 

 足場が崩れる。

 そんな失墜の感覚が、久留美を一気に呑み込んだ。

 

 じわっと目が熱くなり、ポロリと落ちる。

 俯き、久留美は葉を噛み締めた。何も言えない、何もない口の中を締め上げることでしかこの悔しさを堪えることが出来ないのだ。

 

 沈められ黙する久留美を見て、千夜は何を思ったのか。

 それは、直視を解いた久留美にはわからなかった。

 

 しかし、それを知らせる言葉が降る。

 

 

「泣くなって。……こんな人殺しには無用だ」

 

 

 さりげなく、されどそれが逆に強調となって浮き出たキーワードに、久留美はゆるゆると顔を上げた。

 

 ぱっちりと目を見開いて、名残の水滴による潤みを残したまま、千夜を見た。

 

「……二桁越えたところで、数えるのは止めた。ある時は呼吸するように殺した。ある程度の信頼を得てから殺したこともある。どうしようもないだろう? でも、生きて

いたかったから、切り捨てた。たくさん。たくさん。………俺が死んでも、それは泣いてもらう価値のないちっぽけな喪失だ」

「ただの人殺しが死ぬだけだから、気に止むことはないって………いうの?」

「お前の両親も殺した。なおのこと止める理由は無いじゃないか」

 

 双眸をギュッと歪め、久留美はすぅっと息を吸う。

 何か言葉を吐きかける動作であると思ったのか、千夜は気を緩めたように見えた。

 

 罵倒か。

 放棄か。

 

 いずれかを自分が吐き散らすと思っているのだろう。

 

 だが―――――――

 

 

「………ってた、わよ」

「なに?」

 

 上ずりすぎて掠れてしまった言葉を、聞き逃して済まさず千夜が復唱を求めた。

 そして、久留美は今度こそ、と。

 

 

―――――――最初っから知ってたわよ、馬鹿ぁっ!!」

 

 

 わかっているようで全然わかっていない愚か者に、目一杯声を張った。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 幾分かの間を開けて、半開きの口から出た声は表情と共に間抜けそのものだった。

 それこそ、今までの重くシリアスな空気を台無しにしてしまうほどの。

 

 その反応を見て、久留美は盛大に溜息をついてやりたくなった。

 本気なのか。本気の本気で、わかっていなかったのか。

 

 胸の奥底からジワジワと怒りがこみ上げてくる。

 自分は千夜のことを結局何一つわかっていなかった。

 

 だが、それは千夜も同じことだった。

 みくびられたものだ。

 

「だから……知ってたんだってば。あんたが、世間様が言うところの……そういう物騒なやつだってことは。……なんとなく、わかってたわよ」

「最初、から……って……本当なのか?」

「あんたこそ、それマジで言ってんの? ………変なところで鈍感よね」

 

 呆けた表情に演技の色は見れない。

 素で驚いているようだ。

 

「……大体ねぇ、外面のあんただけを知っているのならともかく私はあんたの本性しっかり見てるのよ? 初日に大の男を数人即半殺しにして、背中越しにヤバそうな殺気

迸らせていたら誰だってあんたがカタギだなんて考えは捨てるわよ。まぁ……その時はひょっとしたらってくらいの考えだったけど」

 

 千夜は信じられないという面持ちで、

 

「……気づいていたなら、どうして俺に関わったんだ」

 

 今更そんなこと聞かないでよ、と久留美は出そうになった言葉を噛んで飲み込む。

 しばし、ふと考えた。

 今のこのよくわからない空気は、流れを変える最後のチャンスなのかもしれない。

 

 こくり、と千夜に気付かれないように小さく息を呑んだ。

 

「……あの時は、好奇心だったわ。言ったでしょ、そういう非日常的な物が、私は欲しかったの。あんたの言うとおりよ。私は………私の欲求を満たすためにあんたに

近づいたわ」

 

 一度、そこで止める。

 その先を言おうと思うが、顔が急激に熱を持ったのだ。

 羞恥。

 恥も外聞もなしに内側を曝け出す行為には、あの時にはなかったそれが伴う。

 

 けれど、これしかない。

 もう自分にはこれしかないのだ。

 

 久留美は、腹を括った。

 

「でもね、私が……あんたが人殺しだって実際に聞かされても、あんたが想像していたみたいな反応や態度を返さないのは……………あんたを、知っているから」

 

 向かい合った視線の先で、千夜のそれが揺らぐ。

 よし、と己の行動に芽が出る可能性を見出した久留美は、

 

「あんたは私を助けてくれた。命も救ってくれた。あんたのしてきたことは、確かに蔑まれる行為だわ。だけど、あんたは蔑まれる存在じゃない」

「知ったようなことを言うな」

「そうね。……あんたが、どんな目にあってなにを思ってきたかなんて私は知らない。けれど……そういう手段をとらざるえなかったこと……そうでもしなきゃここに

いなかったってことくらいなら…………想像はつくわ」

 

 けどね、と久留美は語調を強くした。

 

「疲れたなんて……甘ったれたこと言ってんじゃないわよ。自分でそうするって決めたんでしょ? そうやってでも生きていくんだって、選んだんでしょ? 後戻り出来

ない道を往くんなら、ずっと歩きなさいよ。ゴールなんて決めないで、ずっとずっと!」

 

 続けざまに叫ぶ。

 

「ひどいことを言ってるのは、わかってるわ。けど、私はあんたに生きていてほしいの。人殺しでもなんでもいいから、これからもそうしていかなきゃならなくても……

私はあんたにここに居続けてほしいのよ! 誰かの許しが欲しいなら、私が許すから! 誰かがあんたを責めるならどんな理由も恨みも私が否定するから………だからっ」

 

 ぶわっと無意識のうちにまた涙腺から雫が溢れ出す。

 ああ、さっきから泣いてばかりだ。

 ダメだ。止まらない。

 もう自分は壊れてしまったのか。

 

 でも、それでいいかもしれない。

 かまいやしない。

 肝心なことを言いたくても邪魔をする妙な意地は存在しない。

 そんなものなくていい。

 

 今ただ、何処が壊れてしまおうとも―――――――

 

「……やっぱり、正気に戻るんじゃなかったな」

「えっ……」

 

 俯いた顔から、渇いた笑いと共に呟きが落ちる。

 久留美は冷水をかけられたようにブルっと背筋を振るわせた。

 

 俯くそれは、スッと久留美へと向けられる。

 

 

「あのまま暴走していれば、こんなにも言ってもらえていても…………―――――――それでも、聞く耳持たずにお前の前を去っただろうから」

 

 

 穏やかな言葉とは裏腹に、その表情は揺ぎ無い意志を湛えていた。

 

 久留美は息を呑んで、呼吸を止めた。

 涙もその瞬間だけは止まった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 突き刺さった部分から染みていく絶望のゆるやかな速度と共に、久留美は理解していく。

 言葉の類云々の問題ではなかったのだ。

 千夜の意志がブレなかった理由は、そんな問題にあるのではない。

 

 ただ、届いていないのだ。

 どんな言葉も、そこに込めた想いも。

 

 慰めも労わりも叱咤も何もかも。

 

 千夜には、届かない。

 

 

 ………どうしよう。

 

 

 本当に壊れてしまいそうだ。

 けれど、そんな場合ではない。

 ここで久留美まで諦めてしまっては、手のつけようがなくなる。

 

 千夜にとって自分以上の存在は他にいるだろう。

 だが、ここには自分しかいない。

 自分が彼女を止めるしかないのだ。

 

 ここで自分が止めなければ、後が無い。

 

 しかし、考えに集中するには余裕が足らないし、時間にもそれほど猶予がない。

 千夜に特攻の意志が途絶えていないというのなら、あの状態に再び戻るのも時間の問題かもしれない。

 

 

 ………ちゃんと本音で向き合っているのに………これじゃぁ、意味がないっ!

 

 

 何を語ろうと打ち明けようと、そんなものは聞き入れてもらえなければ何の意味もなさないのだ。

 耳を塞いで拒む相手にどうやって話を聞かせればいいというのか。

 

 

 ………だったら。

 

 

 久留美は、ぐっと腹に力を込めた。

 震えそうな身体を押さえ込むように息む。

 

 最後の賭けだ。

 文字通り、"命がけ"―――――――

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 両手を付いて、うなだれるように顔を伏していた久留美は、不意を打つタイミングを図ってそのスタート切った。

 

「……わかった」

 

 緊張を声に滲ませてはいけない。

 出来るだけ自然を装い、力のないそれを演出する。

 

 相手は正気ではないとはいえ馬鹿ではない。

 一瞬の気の乱れがこちらの意図を悟らせる。

 

 あくまで危うさを醸し出さなければならない。

 

 ………ダメね。

 

 次の手を踏むのに迷い躊躇して動きを鈍らせる己の身体を実感し、久留美は考えを変えた。

 

 演技ではダメだ。

 "その気"でいかなければ太刀打ちできまい。

 

―――――――

 

 久留美は、少しだけ思い浸る。

 己の中で泉のように溜まった絶望の中で。

 

 すると―――――――身体は嘘のように迷いを忘れた。

 

 

「……久留美?」

―――――――そんなに死にたいなら、好きにしなさいよ」

 

 声は自然と力なく出た。

 そして、その後に次いだ起立の振る舞いも。

 

 ふらり、と何処か不審な揺らめきを見せながら立ち上がる久留美に対して、千夜が訝しげに視線を送っているのをチラリと捉えた。

 うまく絡めとれたようだが、ここからが本番だ。

 

「あんたの命だもの………あんたの好きなように使って終わらせればいいわ」

 

 けどね、と小さく継続の予兆を口にし、

 

「……私も私の好きにするからね」

 

 そう言い切った直後に、一気に動いた。

 千夜が目を見開くが、反応は若干遅れた。

 

 久留美はそれを勝機とし、持ちうる瞬発力を全てその一瞬に注ぐ気で駆けた。

 

 目指したのは、手を伸ばすのでは少し遠い程度の距離間にある―――――――ナイフだ。

 

「久留美っ!?」

 

 叫びの瞬間と共に、久留美はそれを両手で掬い上げた。

 それを両手でしっかり握る。

 そして、刃を向けた。

 

 

 己の首筋に。

 

 

 決して広くない空間で、二人の緊迫感に満ちた濃密な時間が始まった瞬間だった。

 

 

「………何を、しているんだ」

「…………」

 

 久留美は答えず、ただ睨むように視線で迎え撃つ。

 

 互いに不動が十数拍ほど続く。

 しかし、次の一拍で千夜が立ち上がる気配を見せた。

 

「来ないで」

 

 久留美はすかさず制止を飛ばすが、それに然程効力がないことはわかっえいた。

 

「……来たら、舌噛む」

「ナイフじゃないのかよ……」

「叩き落とされた後の保険よ。あんたにナイフとられても、それくらいの手段はまだ残ってるって言いたいわけ」

 

 にやり、と口端だけの笑みを浮かべると、千夜の表情が険しくなる。

 

「……やめろ」

「いやよ」

 

 千夜の言葉を叩き落し、久留美はその後に己の言葉を続けた。

 

「……帰ったって、私には何にも残っていない。親もいないし、あんたが死んだら友達だって居なくなる。……せいぜいマスコミのネタにされるか、一生悲劇のヒロイン

のレッテルがつきまとうかよね……」

「………っ」

「どんなに夜が明けて、朝が来ても……全部なかったことにはならないのなら………いっそ、ここで終わりたいわ」

 

 言いながら、久留美は溜息をつきたくなった。

 悲痛に歪む自身の表情に、千夜は気付いているだろうか。

 

 それを、どうして自分のために浮かべられないのか。

 その矛先を、そんな簡単に他人に向けられるのか。

 

「なんて顔してんのよ、バカ」

「……どうして」

 

 どうして―――――――

 それを、聞くのか。

 

 ありのままぶつけてやりたい衝動に駆られるが、今は堪えなければならない。

 久留美は、喉元から這い上がってきたそれを半ば強引に飲み下し、全く異なる返答を舌の上に乗せた。

 

「……理由は、あんたと同じよ」

 

 

 ………さぁ、こっちを見ろ。

 

 ………私を見ろ。

 

 

 久留美は、己の意図すらこの瞬間には放り捨てた。

 今この時に必要なのは、嘘を真実に化かすこと。

 

 成功するか否かは、賭けだ。

 これ以上になく危険な賭けにぶちこむ代価は、己のこの命一つ。久留美には、それしかない。

 

 言葉が届かないのなら、嫌でも聞かせてやるしかない。

 そのためには、動揺させ、自我を揺さぶる必要がある。

 この命が、その琴線に触れることが出来るほどの価値を千夜に対して持ちえているのか。

 

 それが、賭けだった。

 

 

―――――――疲れた」

 

 

 勝負の瞬間だった。

 久留美は、添えていた刃に力を込めた。

 

 

 

 

 

 




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