「む、無念……っ」





 やけに芝居がかった声と共に、最後の一人が床に倒れ込んだ。




 その男の下には、少し前にいち早く伏した一人が。

 その周りには同じように地面に敷かれるその他大勢の人間が、各々負傷を負って白目を剥いていた。



 そして、その上に唯一立つ男は、息が若干荒いものの傷一つ見当たらない。

 呼吸をある程度整えたかと思えば、一度は緩めた表情を再びギッと強ばらせ、ある一方をぐりんと振り返った。

 その視界が捉えた目標は呑気に丼を持って、エビ天にプリプリシャクシャクと齧り付いていた。





「……………………くぅぅぅぅるぅみぃぃぃぃ」





 空気を鈍く震わす声色が、こもる息と共に吐き出された。

 力強く一歩踏みしめるたびに足下で潰れたヒキガエルのような呻きが上がるが、蒼助は無視して新たな標的に歩み寄る。

 久留美がエビ天を丸々口に頬張った時には、その姿を見下ろせる位置まで接近してしまっていた。

 

「何、もう終わったの? 私お昼にしたばっか―――――――

「知るかヴォケ」

 

 久留美の言葉を一蹴し、ガッと襟首を掴んだと思えば、蒼助はそのまま久留美を軽々と宙に浮かせた。

 突然、足が地面から離れた状態となった久留美を襲うのは、ニュートンの法則を無視したことによる重力の応酬だった。

 ギリギリと襟首に締め付けられる喉元は酸素の通過を妨げる。

 久留美の顔色は平常色から赤へ一転した。

 

「ぐ、ぇふ………ちょっ、いきなりっ……」

「そりゃぁ俺の台詞だわなぁオイ。……教室行ってみりゃ誰もいねぇわ、担任は後で全員課題提出だとか抜かすわ、ようやくアイツを捕まえたかと思えば外野に邪魔される

わで…………ほんと、どーゆーつもりなんだろうなぁ?」

 

 きゅっと更の絞まる。

 イカン、と久留美は一つの既視感を覚えた。

 

 マジ切れしている。

 あの時と同じだ。

 

 息が詰まり顔が赤くなる一方で、内心サッと血の気が引く。

 

「ま、待ちなさっ……話を」

「おー、聞かせてもらおうじゃねぇか。俺を納得させられるような内容(もん)ならなぁ」

 

 凄む言葉と同時に足先が地面が少し遠のく。

 上昇と共に体に負荷が加算され、呼吸はより困難な状況に追い込まれる。

 久留美の顔色は赤から青へ変化し、危険領域へ突入し始めた。

 

「ぐ………ぇ、っ」

「あー? 聞こえねぇな〜?」

 

 このドS野郎がっ!、と薄れ始める残された理性で久留美は言葉なく毒づいた。

 いよいよ視界が白くなり始め、もうダメかと思われた時、

 

「このアホッ、オチてまうやろが!」

 

 これ以上は危険と空気を読み、止めに入ったのは七海だった。

 何処から持ってきたのか、ガムテープでがっちり固定された紙のハリセンのフルスイングは蒼助の頭部側面を思い切り直撃し、衝撃は脳を揺さぶった。



 思い切った不意打ちは久留美を責め苦から開放させた。

 咳き込む久留美の傍目で、蒼助は蹲って手加減なしで殴られた頭を抱える。

 

「ぐぉぉっ……な、七海ぃぃっっ」

「やかましい」

 

 ねめつける蒼助に容赦なく今度は切るような垂直な一撃が、これまたスパンと気持ちのいい音をその脳天にて響かせた。

 グハッと追撃に呻く蒼助に七海は得物たるハリセンを肩に担ぎ、

 

「ええから聞けや、スカタン。今回ばっかは久留美やのうて、あんたが悪いんやで」

「っ……ああ? 何でだよっ」

「そのまんまの意味や。あんたの不始末が諸悪の根源なんやからな」

「不始末って………どういう」

―――――――そのまんまの意味よっ!」

 

 言葉を終わりを遮るように、まだ少し涙目の久留美が、膝をついて腰より下の位置にある蒼助の脳天に振りかぶった踵を落とした。

 トドメとなったその一撃に、蒼助は今度こそ悶絶に陥った。

 思った以上に硬かった目標物に、久留美も若干痛みを被った踵を押さえながらも、

 

「ったく、とっかえひっかえしてる割には女の扱いがなってないわよ。おかげで私たちが骨折ってんだから……」

「………だ、だから一体何だってんだ」

 

 おそるべき耐性力の賜物か、重なる痛みの中でも蒼助は返事を疑問という形で返した。

 

「お前、学内のセフレ全員を切り捨てたんだってな」

 

 噛み合わない応えを返したのは七海でも久留美でもない。

 いつの間にか蒼助の傍にやってきた昶だった。

 

「何で、それを………」

「失敬するぞ」

 

 驚く蒼助を無視して、昶は旧友の学ランの内ポケットに手を突っ込んだ。

 何しやがる、と喚く蒼助に構わず取り出したのは携帯電話。

 そのまま我が物顔でアドレス帳を開く。



 そして、

 

「ああ、ほんとだ。しかし、綺麗さっぱり片付けたもんだな」

 

 そこにあるはずの女たちの名前がこれでもかというくらいに綺麗になくなっていた。

 さぞ迷いなく消去していたであろう姿が昶には安易に想像づいた。

 

「聞けよ! 何で、お前がそのこと知ってんだって!!」

「知らないのは、噂の渦中であるお前と終夜だけだぞ。あれだけ校舎を四六時中駆け回ってりゃ、誰の耳にだって知れ渡る。それに、お前……」

―――――――目撃情報その一、月曜日の三時限後の校舎四階にて三年女子生徒と口論。興奮したように言い募る女子生徒をまともに相手にせず、そのまま立ち去る」

「………は?」

 

 昶と面していた蒼助は耳に届いた別の声が紡いだ先日の己の行動に、何を突然、と振り向いた。

 手帳片手にそこに書かれていることを読み上げたであろう久留美は、更に続ける。

 

「更に、同じような目撃情報、第二、第三………全部で十八よ。違うところといったら、相手の女くらいね。これ全部―――――――あんたのセフレでしょ?」

「だから、何だよ………もう手は切った、関係ねぇ」

「………関係ないって………そんな風に思ってるのはおめでたいあんただけよ、この馬鹿!!」

「誰が馬鹿だ、この出しゃばり女!」

「言ったまんまでしょ、この無駄撃ち男!」

「てめっ……!」

「何よ、ほんとのことでしょ! その面下げて否定しようってわけ!?」

   

 神経のささくれ立った今の蒼助は、通常よりも短気になっていた。

 これ以上の挑発は危険と判っているはずの久留美も、この場で限りは加減を忘れて煽りを立てた。

 一触即発の空気が爆発寸前なのを逸早く察し、動いたのは、

 

「ちょっ……そこまでにしとき! キレ過ぎやっ」

「蒼助、お前もだ」

 

 取っ組み合いを始めそうな二人を背後から羽交い絞める。

 自らの動きに抑制をかけられたおかげが、久留美と蒼助はそこで勢いを若干弱めた。

 ふぅ、と昶は蒼助の後ろで溜息をつき、

 

「新條じゃないがな………今回はお前が悪いのは間違いないんだ」

「ああ? だから、何でだって聞いてんだろが! 」

「お前さ……―――――――セフレ、全部切り捨てたんだって?」

 

 アドレス帳を開いた蒼助の携帯を本人に見せるようにしながら、昶は話を切り出した。

 忘れかけていた驚愕が蒼助の中で甦る。

 

「みんな知ってるんだよ。新條がさっき言っただろ。あんだけ人目を憚らず別れ話切り出してりゃ、誰の耳にも広がるだろうさ」

「憚ったっつーの。俺はちゃんと、人気のない場所に呼び出して……」

「この学園に本当に人気がない場所があるわけないだろうが。いつ、どこで、人が聞き耳たててるかわからないようなところだぞ」

 

 昶の言い分に、蒼助はぐっと詰まる。

 無論、この学園内でそういった油断が命取りであるということは、既に一年という時間の中で育んだ経験で熟知していた。

 外で呼び出すなりなんなり他に安全な方法はあったことも確かだ。

 しかし、今の蒼助には時間に余裕というものがない。

 その為に手間を惜しんだがために、見事に失態を招いてしまったらしい。

 

「ちなみに、聞くが………お前、別れ話になんて言ったんだ?」

 

 何処か諦めた感を含む昶の問いに、蒼助は突然何を聞くんだと言葉に迷う。

 少し間をおいて、

 

「なんてって………別にたいしたこと言ってねぇよ」

「なら、そのたいしたことない台詞とやらを言ってみろ」

 

 妙に力のある昶の言葉に押され、

 

「………"もうお前を抱く必要が無くなった。だから、俺とお前の関係はこれっきりだ"

 

 躊躇を拭いきれないまま言われるままに告げる。

 すると、食堂の気温が一気に下がったような感覚が蒼助を襲った。



 絶対零度。

 空気はまさにそう当てはまるかのように、冷たくなっていた。



 ハッと周りを見回せば、それぞれランチをとりながらこちらを遠巻きに眺めていた女子は冷たい眼差しを。そして、気絶していたはずの男子までもが傷ついた体でふらり

よろりとゾンビの如く甦ろうとしていた。

 突き刺すような白い目が己に集中していることに対し、蒼助は真剣に意味がわからず戸惑った。

 

「お前………」

「な、何だよ。何かまずかったかよ」

「言うに事欠いてそれかいな……ありえへん。悪びれもなくそないに言われたら、あの人らやのうても………こら、キレるわぁ」

 

 昶や七海までもが、どうしようもない人間を見る目で蒼助を見ていた。

 孤立無援の渦中に置かれた蒼助は、ただ一人状況を理解出来なかった。

 

「……っとに、馬鹿じゃないのアンタは!!」

 

 俯いていた久留美は、七海の拘束を振り払い蒼助に勢いのまま掴み掛かった。

 

「アンタのその雑な後始末のツケが誰に回ってると思ってんのよ!! 呑気にケツ追っかけ回してんじゃないわよ、この色ボケ頭っっ!!」

「あ、ああ……?」 

 

 唐突に怒り狂い出す久留美についてゆけず、蒼助は呆気にとられるばかりだった。

 

「落ち着け、新條」

「だっ………………ごめん」

 

 かかる昶の制止で、無理矢理胸の奥の熱い感情を押さえつけるかのように久留美は口にしかけた言葉を呑み下す。

 代わりに装い程度に冷静さを表に引き出そうと心がける。

 そして、やや冷静さを取り戻した目に蒼助を映し、

  

「………蒼助、プライド傷つけられた女ってね………怒りの矛先が無茶苦茶なのよ。例えば、当人じゃなくて…………当人の視線が向けられているその先の誰かとか、ね」

 

 含みのある言葉に、蒼助は捉えどころのなかった話の中にようやく何かを見た気がした。 

 

「………なんか、あったのか?」

「なかったら、今頃クラス総出で授業放棄なんてしてないわよ………はぁ」

 

 ようやく話になってきたと溜め込んだものを吐き出すように溜息づいた。

 

「昨日、上級生の女三人がうちの教室に来て千夜を指名してきたわ。この場にいないとわかったら、居場所まで聞いてきた。……去り際は、ご丁寧に憎憎しげに舌打ち残し

てね。………で、その時いた早乙女くんが顔に覚えがあるって教えてくれたのよ……」

 

久留美の視線は僅かに動き、蒼助の背後の昶を示す。

振り返る蒼助に昶は、拘束を解き、

 

「………正確にはその中の一人に、だ。【志野千晶】、だったか。俺が名前は覚える程度にはお前とは長い方の奴だぞ、確か……覚えてるだろ?」

 

 昶のいうように、他に比べれば幾分記憶にはある女だ。

 蒼助とだけではなく、他にも何人か男と関係を持っている。

 蒼助もその一点集中しない執着心の薄さを気に入り、関係も長く続いていた。

 彼女にとっては自分は関係持つ男の一人でしかないと思い、携帯からアドレスと電話番号を抹消しただけで、直接話をつけにはいかなかった。



 その彼女が、何故千夜に接触を図ろうとするのか。



 意味がわからず理解に苦しむ蒼助の心境の察したのは、

 

「……何でって、顔だな」

 

 向き合っていた昶だ。

 

「お前がその女をどう捉えていたか知らないが………その実質は違ったというだけだろ。現に、終夜を探してた時のあの女の顔は………まるで、般若みたいだったぜ」

「…………。それで、何でお前らは?」

「お前の選ぶ女ってやつは、どいつもこいつも気の強い我の強い女ばっかりだからな。………何かあったら完全に巻き添えだろ、終夜は。それで久留美が作戦を提案して、

ここにいる連中が賛同して協力してくれたってわけだ」

 

 ナイスフォローだったろ、と呟いた言葉に蒼助は返す言葉などなかった。

 

「まぁ、さすがに連日で出来ることじゃないから今日でお前を捕まえて、話をつけさせるつもりだった。で、お前はまんまとこっちの手筈通りに動いた、と」

「………話をつけさせるって」

「あのコと、あんたの昔の女に対してにに決まってるでしょ!」

 

 話の間に掻き分けるに割り込んだのは久留美だ。

 眉尻をきりっと上げ、眉間に皺を寄せる久留美は蒼助を襟首を掴み、ぐっと引き寄せる。

 

「土下座なりリンチなりされなさいよ。ナニされたってあんたが悪いんだから、当然無抵抗に徹しなさいよね。


 ―――――――あんたが踏みにじってるのは、それだけの償いが必要なものなんだから」

「何で、そんなこと」

「その女にっていうのが嫌なら、千夜に謝るつもりでしなさいよ。つーか、その女のとはどうでもいいのよ、実際は。……私が腹立ってるのは、あのコに対する誠意が全く

ぞんざいな上、いらん火の粉をあのコにひっ被せてることに対してよっっ!」

「っ………」

 

 確実に痛い急所をついてくる久留美の言葉には、反論の余地がなく口を噤むしかない。

 

「言ったわよね……あのコを踏み躙るようなことしたら承知しないって………私、あんたにこの前言ったわよね……?」

 

 低く落ちる声。

 きつくなる眼差しは、その持ち主の怒りを蒼助に嫌という程知らしめる。

 かつて見た事のない久留美の激昂する姿に、蒼助は呆気にとられて反抗という意思を忘れた。

 

「くる……」

―――――――と、に、か、くっ!!」

「ぐえっ!?」

 

 いきなり絞めあげられ蒼助は呻くが、久留美は容赦しない。

 

「わかったら、とっととその女が来る前に自分から行きなさい!」

「ちょっ、くっ……しまっ」 

「四の五の言ってんじゃないわよっ! 嫌とは言わせないわよ、こっちにはあんたの人生ブチ壊せるだけのネタこさえてんだから、それが嫌なら……」

 

 その次の瞬間、突然久留美の表情から抜け落ちたかのように感情がスッと消えうせる。

 蒼助は目の前の出来事に、今度は何だ、と反射的に身構えた。



 が。

 

「………早乙女くん、あのコは?」

 

 呟きのような問いは目の前の蒼助にではなく、真逆の背後―――――――昶に向けられていた。

 そして、すぐさま振り向き、

 

「ねぇ、あのコは? さっきまで一緒にいたわよね……いたじゃないっ」

「ああ、終夜ならここに近いトイレに行ったが……」

 

 ラリアットの強襲の後、咳き込む中でそれでも見逃さずにおいた千夜の行方を告げたが、昶の言葉も途中で行き詰まるように勢いを落として止まる。

 久留美と同じように、一瞬表情が失せたかと思えば、次に浮かび上がったのは苦渋が滲み出た表情だ。



 そして、

 

「すまない、注意が足らなかった……」

 

 彼女はまだ戻ってきていない。



 時間はまだ不審が沸くほど過ぎていない。

 だが、狙われている人間から目を離す、というのはこれ以上に無い致命的な失態(ミス)だった。



 嫉妬に狂った鬼と化した女ほど、行動に見境が無い。

 ましてや、志野千晶という女は真面目とは言い難いタイプだ。

 授業をサボって嫉妬の対象を探し回っていたとしてもおかしくないだろう。



 ひょっとしたら、外で二人で話していたところを見られていたかもしれない。

 しかも、気配の有無は、あの時ばかりは周囲への注意が散漫していたが為にわからないのだ。

 

 この代償は大きい。

 昶が己の失敗がどれだけのものなのかを分析し終えた時―――――――

 

―――――――蒼助っ!」

 

 我に返って見た昶が見た蒼助は、既に背を向けて食堂から出て行くところだった。









 ◆◆◆◆◆◆









 薄暗い。



 浮かび上がった意識が確認したのは、まずはそれが最初だった。




 そして、徐々に焦点が明確になりつつある視界で周囲を捉える。

 ここは何処だろう、という疑問には、視界が得る情報が応えた。

 

 並ぶ数台の跳び箱。

 篭の中で積み重なる積み重なり入るバスケットボール。

 

 特徴的にも程があるそれが場所を意図せずとも証明していた。




 ………体育用具倉庫、か?




 だとすれば、この体の下の固く荒い布の感触はマットだろうか。

 起き上がろうと身を動かした―――――――つもりだった。

 

「……っ」

 

 思ったこと実行できなかった。

 意識を取り戻した途端に、体が酷い倦怠感に苛まれる。

 それは、痺れという形で襲ってきた。

 

―――――――目覚め? お姫様」

 

 現状と前後の記憶がはっきりしない千夜の耳に、嘲るような声が響く。

 持ち主を女、と認識し身動きの聞かない体を横たえたそのままに、視線でその存在を追う。

 気だるい眼を動かして漂わせた視線が見つけたのは、暗がりに佇む三人の女の影だった。

 その刹那、何かが急接近する。

 

―――――――っ!」

 

 飛来した『何か』は、千夜の腹部の上を強く跳ねる。

 叩く痛みに千夜は悲鳴はあげなかったものの、喉に息を詰まらせた。

 軽く咳き込み、己の腹の上を跳ね上がった物体が地面の上を転がるのを凝視する。

 

 バスケットボール。

 

 突然の暴挙に、千夜はその発射元をきつく細めた眼差しで刺すように見つめた。

 

「あら、お気に召さなかったみたいね。"猫"は、ボール遊びが好きな生き物だと思っていたのに」

 

 不思議そうに首を傾げながら笑う中央の女。

 前へ一歩出て、暗がりでも若干わかるようになった顔は化粧に彩られ、実に綺麗な女としてその存在を演出しているが―――――――その笑みは、美しいはずなのに何処か

歪んでいる。少なくとも千夜にはそう映って見えた。

 

 そして、女の顔を見て、千夜は霞んだ記憶を明確に修復させる。





 化粧室。

 出ようとしたところに上級生の女三人。

 通り過ぎようとしたところ、何かの衝撃。

 暗転(ブラックアウト)

 

 

 一つ一つピースが嵌って埋まる空白、パズルの完成。

 全てを思い出した。

 恐らく気を失った後、この女たちによってこの体育用具倉庫に運ばれたのだろう。

 最低限踏まえておくべきことを理解をすると、千夜は女の発言に中に混じっていた不可解な言葉に意識を向けた。

 

「………猫?」

「猫でしょう? 何が違うの? ―――――――この」

 

 

 

 泥棒猫。

 

 

 紡いだ唇が、ぐちゃりと歪んだように見えた。

















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