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 ―――――――大丈夫、ですか?



 

 

 

 蝉の声がうるさい。

 けれど、疲労しきった脳には、それも遠く感じる。

 

 

 なのに、『彼女』のか細い声だけは、はっきりと響いていた。

 

 

 ―――――――ごめんなさい。きっと……おじいちゃん、はしゃいでると思うんです。

 

 

 揺れる意識の中、汗ばんだ額に冷えた感触が触れたのを感じ取る。

 

 おそらく、『彼女』の手だろう。

 

 

 ―――――――少しだけ休んだ方がいいですよ。……大丈夫。私、このあたりは詳しいんです。あとで近道教えてあげますね。

 

 

 置いていかれそうになったら、今度からそこを使ってズルしちゃうといいです。

 

 悪戯を企むような笑いを小さくたてながら撫でる手が、ただ心地いい。

 動いている間は気付かなかった風が、今は汗で濡れた髪や肌に確かに感じれた。

 

 疲労感と安堵があいまって、眠気が近づいてくる。

 

 

 ―――――――寝ていいですよ。……起きるまで、ここで待ってますから。

 

 

 赦しを得た心は、あっさりと躊躇を捨ててしまった。

 瞬きを繰り返す動作が徐々に緩やかになっていく。

 その前に、この穏やかな時間を提供してくれる相手を確認しておきたかったが、あいにくもうそんな力さえ残っていなかった。

 

 

 

 蝉の声。

 涼やかな風の感触。

 そして、『彼女』の手。

 

 すべてが、ほどけて朧なものへと変わっていく。

 

 

 



 ―――――――おやすみなさい、シズマさん。

 



 

 

 儚くも確かな声だけが、綻びることなく響いた。 

 

 










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